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[ Design Tourism ]
2025.06.11
デザインツーリズム@熊本 Epi.2 熊本アートポリスを巡る
デザインツーリズム~熊本編~第2回は「くまもとアートポリス」や道中のスポットを紹介する。
「くまもとアートポリス」とは、環境デザインに対する関心を高め、都市文化並びに建築文化の向上を図るとともに、文化情報発信地としての熊本を目指して、後世に残る文化的資産を創造する熊本独自の事業。熊本県内全域に点在するそれらは、警察署から港・展示場と様々だ。
熊本駅
所在地:熊本市西区春日3丁目15-40
竣工:2019年
設計:安藤忠雄建築研究所(デザイン計画)、九州旅客鉄道+安井建築設計事務所
陸の玄関口の顔となる新しい「熊本駅舎」が2019年に完成。計画チームは、安藤忠雄建築研究所(デザイン計画)、九州旅客鉄道+安井建築設計事務所である。弓形のファサードは、アルミキャスト下見張り。アルミキャストはショットブラスト処理の上、電解一次着色。ホーム上屋はベイマツ集成材架構の屋根からなる。外壁は熊本城の石垣にみられる「武者返し」の反りを取り込み、熊本の顔としてふさわしい、強くも美しい威風を表現。駅舎外観において高さとその長さでほんとに美しい姿を見せる。夏目漱石に「森の都」と評させた熊本。ホーム上家はその木立の下にいる感覚を、木組みのボリュームを強調していて降り立つ乗降客に「安らぎ」を与える。その姿を見た人は「熊本を誇れる素晴らしい駅舎」だということが分かるであろう。(水谷)






A列車で行こう
運行区間:JR熊本駅〜三角駅
運行開始:2011年
設計:JR九州、水戸岡鋭治(車両デザイン)
『異国の香り漂う鉄道旅、A列車で行こう』
16世紀大航海時代のヨーロッパ文化とハーレム生まれのジャズを融合させた異色で独創的な発想が、僅か2車両の中に凝縮されている「A列車で行こう」。キリシタン教会を彷彿させるステンドグラス、ロゴマークを紋のように施した装飾格天井、天草更紗が想起されるモケットのテキスタイルなど車内のインテリアデザインにはじゅうぶんな異国情緒を醸し出す。
熊本駅を出発し終点三角駅まで40分の小旅行。最初の停車駅宇土駅を出発した後は、右手側車窓に有明海が広がり遠くに微かに雲仙普賢岳が見えてくる。その手前には日本の景勝地、御輿来海岸が。赤瀬トンネルを抜けてみかん畑をすぎると今度は左手に有明海が見え、終点の三角に到着する。明治36年に建てられた海の見える駅としてコロニアル風の木造の駅舎はA列車運行開始とともにリニューアルされている。(山本)






三角港ターミナル(海のピラミッド)
所在地:熊本県宇城市三角町三角浦1160-177
竣工:1990年2月
設計:葉祥栄
「くまもとアートポリス」の一環で建てられた三角港フェリーターミナルは、巻貝と同じように内外の二重螺旋のスロープの床版によって連続的に補強されたコンクリート外殻構造で、直径34m、高さ25mの円錐型である。円錐が頂部のトップライトは、自然光を導入し、夜間は逆に発行してコンクリートのフレームを照らす。歴史ある港のランドマーク、まち起こしのシンボルとして視覚的に認識され、エンドレスの二重螺旋のスロープを上下して景観を楽しみ、また景観を形成する一つの環境装置としての機能を果たしている。頂上にもうけられた展望台からは、天草東港や戸馳島だけでなく、天草の海も一望できる。(落合)





未来の森ミュージアム
所在地:熊本県八代市西松江城町12-35
竣工:1991年10月
設計:伊東豊雄
熊本県八代市にある「未来の森ミュージアム」は、地域の歴史と文化を未来へつなぐ博物館。八代地方の豊かな自然や、古代から続く人々の営みをテーマに、多彩な展示が並ぶ。
館内では、八代のシンボルである「八代妙見祭」の貴重な資料や、古墳文化を伝える出土品、そして近代の暮らしを映す展示が楽しめる。映像や体験型展示も充実し、子どもから大人まで歴史を身近に感じられる。
博物館の名が示す通り、「未来へ続く森」のように、八代の歴史と文化がここに根を張り、成長を続けている。過去と現在をつなぐこの空間で、八代の魅力を深く味わう旅が始まる。
(落合)


熊本北警察署(現 熊本中央警察署)
所在地:熊本県熊本市草葉町5-13
竣工:1990年
設計:篠原一男+太宏設計事務所
ハーフミラーが正面全てに施された、まるでテトリスのような奇抜な建造物。ハッと目を奪う警察署とは思えない斬新なこの建物は、くまもとアートポリス第一号として計画された熊本北警察署である。篠原一男設計であるが、数学を専攻していた建築家ならではとも思えるコンセプチュアルで洗練された建造物である。建物は大きく2つの機能に分けられており、上に行くほど広がる構造になっている。サイドの円柱部分に空調室外機器等を収めることにより景観も保たれ、西の正面側には交通課や道場などのパブリックな用途、東の奥側は事務的な用途となっており、西は鉄骨造、東はSRC造と構造形式も異なっている。国道沿いに建てられた熊本城へ向かう東西の軸線上にあるこの建築は、その外観からも熊本市中心部の街並みに強い印象を与えている。(白木)

保田窪第一団地
所在地:熊本市帯山1丁目28
竣工:1991年8月
設計:山本理顕
『コンクリートの中の社会実験:保田窪団地のイノベーション』
熊本のアートポリスの存在も知らずに、誘われて向かった保田窪団地。市内から15分ほど車を走らせた閑静な住宅街に突如風変わりなコンクリートの建物は朽ちている印象は否めなかった。しかし30年以上前にプライベートとコミュニティーというものを曖昧に区別するというシステムを作り出していることに驚く。竣工当時は山本理顕先生ご自身もメディアでは酷評としてしか取り上げられたなかったというぐらい、集合住宅のイノベーションだったのだ。住民が生活している空間のため外からしか様子は伺えなかったが、山本先生が「設計するだけでなく、その後の人の集まり方もデザインしていく。それは建築家の責任。」と言われていたが一つの住宅に一つの家族が住むことを前提とせず、助け合いながら暮らすあり方を提案したという社会的に意義ある実験だ。(山本)
新八代駅前「きらり」
所在地:熊本県八代市上日置町
竣工:2004年
設計:乾久美子


Episode3へ続く