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Interview

2022.01.18

日本空間デザイン賞2021 KUKAN OF THE YEAR 受賞者インタビュー「未来コンビニ」

2021年日本空間デザイン賞の大賞受賞者2組に、受賞プロジェクトへの思いをQ&A形式にてお話を伺いました。

両者のお答えに共通して感じるのは、ご自身のデザイン作品であることの枠を超えた、プロジェクト自体への愛情や情熱に溢れていることです。そして、創造物の「これから」に大きな夢と希望を託されていること、それが伝わってきます。

2021年日本空間デザイン賞大賞受賞 作品名「未来コンビニ

お話をお伺いしたのは、クリエイティブディレクション・グラフィックデザインを担当された 鵜野澤啓佑 氏(KITO DESIGN HOLDINGS Board Director/写真左)、建築・インテリア・ランドスケープデザインを担当された 佐藤航 氏(KOKUYO Chief Designer/写真中央)と 蜜石陽平 氏(GEN設計 head of Design Office/写真右)です。

受賞された「未来コンビニ」のKITO DESIGN PROJECT について教えてください。

鵜野澤氏:人口約1,000人の限界集落と呼ばれる地域を含めた徳島県那賀町にある木頭地区を、文化、食、教育の力で「全ての人が笑顔になれる、奇跡の村を創る」ことを目指し、未来へとつなぐ活動を続けているプロジェクトです。

未来コンビニは、この地で生まれ育つ子供たちが広い視野を養い、志高くその芽を育て、日本の未来、世界の未来を変える力を育むための場となることを目的として作りました。

また、木頭地区には地方に共通する課題が凝縮されていると考えています。私たちは未来コンビニをはじめとしてその挑戦の歩みを止めず、地方から社会全体に与える影響力や可能性について模索し続け、持続可能で発展的な活動を推進していきます。

「未来コンビニ」のロゴ、そして正面ファサードに設置された大きなデジタル時計に込めた想いについて教えてください。

鵜野澤氏:”子供は未来から来た未来人”というコンセプト、そして”自然との共生”を軸に未来コンビニのデザインは完結されています。

デジタルクロックは子供たちの将来へ向けてのメッセージ。この建物の一番象徴的なアイコンです。子供が大人になっていく”時間”を可視化し、子供たちの、そして木頭の人々の過去、現在、未来を紡いでいくものです。未来へ続く時間に想いを馳せ、時を想像する私たちの哲学をデジタルクロックで表現しています。

ロゴは木頭から放たれる未来への希望の光と、何万光年彼方からこの地へと降り注ぐ星の光を、放射状のラインで表現しました。木頭の夜空に輝く満天の星を見上げながら、昼間の空にも存在している星の光を感じられるように。

KITO DESIGN PROJECTの、地域性を表すポイントを教えてください。

佐藤氏:木頭は日本で初めて柚子の接ぎ木に成功した歴史的な地です。また降雨量も日本一を誇り、四国のチベットと呼ばれる自然豊かな環境です。そこで木頭ゆずをイメージした立体トラスによる建築構造をデザインの軸に添え、そこに薄く軽い大屋根をかけるというシンプルな設計で表現しました。そして地域の歴史やアイデンティティに誇りを持ち、木頭の雨や自然を世界一美しく感じる建築をデザインしました。木頭の山並みから柚子の木々が舞い降り群生し、山並みと調和した水平に伸びる大屋根がかかることで、柚子の木々のもと地域の方々と来訪者が出会い木頭の過去と未来を紡ぐ場所になることを願いました。

その設計案を思いついたとき、どんな感じでしたか?

佐藤氏:当初より事業性からコストを意識していたため、プレファブ工法で何かできないかと考えていました。そこで、たまたまルナントラスさんのホームページを見つけ、直線的な立体交差が森の中にいるような美しさを感じ、これは!と思いました。そこに色を塗り分けることで柚子の木に見立てれば、既製品のプレファブが木頭のオリジナルストーリーに変わるのでは?と思ったとき、ビビビと来た記憶があります。

このプロジェクトを成したことで、貴方のそれまでの考えにはなかった、新しく見つけた価値観があれば教えてください。

佐藤氏:デザインバイアスについてです。初めの提案は、外構は元あった石垣を残し、木造で切り妻の流線型にうねる屋根と子供たちが走り回りたくなる縁側を外周に回した建築でした。これは木造で地域になじみつつ未来的な屋根形状により、子供、地域、歴史、自然を包み込む案です。この案に対し、KITO DESIGN HOLDINGSの藤田代表から“これらは木頭に既にある、もっと都会的で木頭にないものを建築にしてほしい”と依頼がありました。このとき“子ども”“地方”“未来”という言葉にデザインのバイアスがあることに気づきました。そこから子どもを育み木頭の未来をつくる、そのためのコンビニとはどのような建築なのか、を深く考えるきっかけになったのです。

その新たな価値観がもたらしたこととは何ですか?

佐藤氏:そこから木頭の大自然やアイデンティティを取り込み、地域の方々が誇りに想える建築でありながら、かつ“木頭に未来がきた”と、これまでの地方や子どもにおけるデザインを良い意味で裏切る建築へと思考がシフトしました。

この施設が完成し、地域の方々と子供たちがイベントや日常使いで愛着を持っていることや、遠方からも小中学生が見学に来ることから、デザインバイアスを外して考えることは正解だったと思っています。

このプロジェクトの「苦労したこと」を教えてください。

佐藤氏:徳島空港から車で約2.5時間かかる四国のチベットと呼ばれる約人口1000人の村にコンビニを作り、かつ木頭の未来を紡ぐ場を作るという、まさに前例のないプロジェクトでした。そのため、設計業務以外の多くの検討・調整をプロジェクトチームと共に丁寧に進めることが求められました。例えば商品陳列1つとっても、事業性や遠方配送から什器の種類や配列に緻密な計画が求められ、現地も含めて何度も商品提供をする山崎パンさんと議論を重ねました。その際、社内のプロフェッショナルに繰り返しアドバイスを求めた記憶があります。また自然との共生の観点から環境アセスメントの専門家や、あわせて都会のコンビニではまず考慮しない“虫”対策からその道の専門家に入ってもらい、知見をもらいながら進めていました。

建築設計関係者の皆さんへ、玄人向けのマニアックアピールポイントがあれば教えてください。

蜜石氏:大屋根についてです。町民の皆さんが集まる空間を一枚の大きな板で包み込むよう、東側の壁が立ち上がり大きな屋根となっています(壁・屋根ともに見付30cm)。屋根面は外断熱と天井裏のグラスウールにより断熱性を確保し、また天井内の結露対策として壁と天井の取合に隙間を設け、屋根の勾配にそって空気が流れるようになっています。

南面では夏場の日差しを考え、約1.5mと大きくはね出すと同時に半構造部材として、高さ3.8mの大きなサッシを支えています。そして日照からサッシと天井間にはロールスクリーンを取り付けました。屋根内には照明器具を組み込み、わずか30cmの屋根厚は構造と機能性を担保し、建築全体の意匠性を高めます。

建築設計関係者の皆さんへ、玄人向けのマニアックアピールポイントを、もっと教えてください。

蜜石氏:柚子のトラス構造がサッシで途切れることなく美しく見えるよう、テラス側と室内側の二つのエリアに分け計画しています。テラス側は細い柱(φ114)を独立して設け「ゆずの群生林」のイメージとし、一方室内側は店舗としての機能を重視し、一列の太い柱(φ139)で長スパンを確保しています。トラスのプロポーションは「ゆずの木」をイメージし、トラス下端で2.2mと重心を低めにしています。構造的には建物の水平剛性を連動させる必要があり、エントランス上部のアルミパネル部分に水平ブレースを設け一体化を図っています。トラスの色の塗分けや、「ゆずの実」をイメージした、柱上部の照明器具の取付けにも細かい注意を払っています。さらにゆずの木々が美しく見えるよう、空調はコア側にまとめています。

設計者として、「未来コンビニ」に来場する方々にメッセージをお願いします。

佐藤氏:プロジェクトを通して何度も木頭を訪れるたびに、その自然の美しさや地域の方々の温かさに魅了されました。また未来コンビニはシンプルでありながら一つ一つにストーリーを込めて、ディテールまでこだわり設計しています。その建築体験を是非現地で味わっていただきたいと同時に、木頭の大自然の中で佇む未来コンビニを見て“デザインバイアス”について考えてもらえるとありがたいです。KITO DESIGN PROJECTではこのほかCAMP PARK KITOなど様々な見どころがありますので、是非一度お越しください。

未来コンビニ 徳島県那賀郡那賀町木頭北川いも志屋敷11-1 <MAP>
営業時間8:00〜19:00 木曜定休
(営業時間・休業日については最新の情報をご確認ください)
KITO DESIGN HOLDINGS (https://kito-dh.jp/)
MIRAI CONVENIENCE STORE (https://mirai-cvs.jp/)

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日本空間デザイン賞2021 審査副委員長 鈴木恵千代

人口1000人の中山間地域に、生活に必要なコンビニを作ることの難しさを乗り越え着地させた、未来から来た宇宙船のようなコンビニに感じました。一瞬、見慣れたトラス? リチャードロジャースなどの作品に慣れ親しんだ世代としては、今、のデザインには見えず、しかし何か新しい普遍的な美しさを持っていて、黄色も好きだなという僕の直感もあって深く見つめる作品になりました。未来コンビのロゴが急斜面の森となじむのは、未来の二つの漢字に「木」が含まれているからかなとか、地域の皆さんは物を購入する以外の何を持って帰るのかな、とか、思いを巡らす先にこの作品には、中山間地域に投げかける一つの空間デザインの解があると感じました。立体トラスのディティールも日本での独自の開発ときき、受賞者の言葉の「未来コンビニは、この地で生まれ育つ子供たちが広い視野を養い、志高くその芽を育て、日本の未来、世界の未来を変える力を育むための場となることを目的として作りました。」との心を込めたコンセプトをお聞きし、小さな村での空間デザインが、日本中の多くの人たちに一石を投じた作品となっているように思います。

 

2021年日本空間デザイン賞の大賞受賞者は2組です。
もう一つの大賞受賞「神水公衆浴場」のThe Winner Speaksはこちらから