Activity
[ Design Tourism ]
2025.05.27
デザインツーリズム@熊本 Epi.1 災害との共生
実は、現地で私たちは知った。
目的地とした受賞作品は、遠大なプロジェクトの一端に過ぎない事を。
しかし、作品の価値が下がる事はない。むしろ、それらを知る機会を与えて
多くの学びをもたらしてくれた事に、私たちは感謝した。
当然の事ながら、作者が手掛けたものは作品として発表するが、
その背景や周辺が作者によるものでは無い事は多く、語られない。
しかし、優れた空間は往々にして、切実な背景から生じて課題を見事に解き、
見えない所にこだわったエピソードがあり、周囲もまた切磋琢磨しており、
良き影響の関係にある事も多い。
だから、行ってみて、初めて、気づくのだ。・・・その空間の真価に。
空間は、行ってみないと、分からない。
だから、行こう。デザインツーリズムへ。
参加したデザイナーたち
※50音順
熊本地震震災ミュージアム体験・展示施設KIOKU
所在地:熊本県阿蘇郡南阿蘇村
竣工:2023年
設計:大西麻貴+百田有希/o+h
熊本地震の記憶を後世へ繋ぐ回廊型フィールドミュージアムの中核拠点施設。阿蘇カルデラの雄大な自然環境を臨むこの施設は、敷地をゆったりと横切るように架けられた屋根により、その稜線は周囲の風景を切り取るフレームとなり、敷地を超えた風景に呼応している。
室内は熊本地震の展示に触れる場、屋根の半分を占める軒下は周囲の風景を眺めながら自ら考えることを促す場とするとともに、この屋根は震災遺構の旧東海大学阿蘇校舎1号館への動線となっている。
熊本県産の杉、桧を用いた屋根の架構とRC壁で構成され、壁や床は阿蘇地域で使われる山鹿産の骨材の色味を活かした仕上げ、屋根には野焼きの灰や阿蘇黄土を釉薬に用いたオリジナルのタイルを使うほか、ワークショップによる地域の石を使った人造石研ぎ出し等、熊本由来の自然素材や色が随所に取入れられている。(春日)
震災の記憶は、来るべき災害に備える貴重な教訓になり得る。熊本の先人たちは、そうやって逞しく生き抜いてきた。(津山)
傷跡残る遺構とつながり、阿蘇の風景と連なる。伝えたいものは、建物ではなく記憶。そこからの教訓となる、新たな KIOKU.(津山)






旧東海大学阿蘇キャンパス
所在地:熊本県阿蘇郡南阿蘇村
竣工:1973年
設計:山田守建築事務所
1973年竣工、設計は山田守建築事務所で山田守他界後に竣工を迎えたという旧東海大学阿蘇キャンパスの1号館校舎。Y字に翼を伸ばす形の3階建て建築は、雄大な阿蘇を背景に溶け込み一見何事もなかったような顔をして鎮座しているが、近くに寄るにつれその異様な空気感に包まれる。2016年熊本地震で震度7の揺れによる爪痕があちこちに残されている。サッシはS字に曲がり、柱は崩れて配筋がむき出しに。校舎内部には散乱したロッカーや震災当時の2016年のカレンダーなどがそのまま保存され、時が止まっているよう。建物の中央部分に向かって突撃してくるように唐突に表れる「切り裂かれた」地面。「地表地震断層」はそのまま保存公開されている。壮大な自然の中における人間の小ささと、同時に一人一人の命の重さをあらためて感じ、被災当時に想いを馳せ、言葉を失う。(ルビオ)



阿蘇山
所在地:熊本県阿蘇地方
大地が息づく雄大な火のシンボル
熊本県にそびえる阿蘇山は、世界最大級のカルデラを持つ活火山であり、豊かな自然と観光資源を生かした多彩な事業が展開されている。火口見学や草千里ヶ浜の絶景、温泉や地元食材を楽しめる観光施設が充実し、国内外から多くの旅人を惹きつけている。
また、環境保全や防災対策にも力を入れ、噴火の監視やエコツーリズムの推進が進められている。地元の牧畜文化とも深く結びつき、広大な草原では放牧風景が広がる。
阿蘇山は、火と緑が共存するダイナミックな景観と、地元の暮らしが織りなす独自の魅力を持つ場所。自然と人が調和するこの地は、訪れるたびに新たな発見と感動を与えてくれる。
(落合)


熊本城特別⾒学通路
所在地:熊本県熊本市
竣工:2020年3⽉
設計:日本設計
2016年4⽉の熊本地震で甚⼤な被害を受けた特別史跡熊本城跡の復旧は20年かかるとされたが、重要な観光資源を生かす手法として、⽴⼊を制限するのみでなく、復旧⼯事そのものを⾒せる空中見学通路が考案された。
特別史跡内であるため、堀削や樹⽊伐根、杭打ちもできない制約をかわすため、50mもの⼤スパンアーチ構造や、円弧を描く桁により1本脚で架構が成⽴する「リングガーダー構造」を置き基礎に配置し、350mの蛇行するルートを考案。それらを⼯事動線と分離することで、復旧工事と見学を同時に実現した。
通路は基本幅広く、さらに熊本城や市街地の景観を楽しめる広いビューポイントを配したことで、渋滞することなく、熊本城天守までのルートを楽しめる、人気の観光スポットとなった。
なお、通路は時限制であり、復旧の完了と共にその証として姿を消す。(澤山)





