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Interview

2019.12.04

アジア最大規模の空間デザインアワード「日本空間デザイン賞」誕生!

日本の空間デザイン業界で数多くのスペシャリストが多数所属しているデザイン団体がDSA(日本空間デザイン協会)とJCD(日本商環境デザイン協会)。長年にわたりDSAとJCDが開催していた各アワードが2019年に統合され、「日本空間デザイン賞」が誕生した。

なぜいま、日本で唯一かつ最大の空間デザインアワードが生まれるに至ったのか。その目的と今後の展望を知るため、10月4日に明治記念館で開催された第1回の授賞式をレポートしたい。(2019年12月)

  1. 日本の空間デザインは世界に役立つ
  2.  “形”ではなく、“空間”を評価する
  3. 業界を夢見る若いデザイナーに希望を与える
  4. 真実をデザインの力で呼び起こす
  5. インターナショナルなアワードを目指して

1. 日本の空間デザインは世界に役立つ

ー これまで、DSA(一般社団法人 日本空間デザイン協会)とJCD(一般社団法人 日本商環境デザイン協会)の2つの団体は、それぞれのデザイン思想をもとに、各協会のアワードを約半世紀にわたって開催してきた。

しかし、社会が多様化しているいま、空間に求められる役割は多岐にわたり、新たな切り口が求められている。そこで両協会が手を組むことで業界全体を巻き込み、世界に影響力をもつデザインアワードを設立しようと考えたのだ。

プロジェクトスタートから足掛け3年半、「日本空間デザイン賞」という新たなアワードが誕生した。これまでの背景について、DSAの会長であり、乃村工藝社クリエイティブディレクターの鈴木恵千代氏はこう語る。

鈴木:アワードはたいてい分割されていくことの方が多く、二つのアワードが一つになるのは、非常に珍しいこと。DSAやJCDをはじめ、日本はデザイン協会の数が多く、各アワードのスケールが小さいという問題がありました。さまざまな課題を乗り越え統合に至ったわけですが、集まることでコミュニケーションがとれるだけでなく、新たな力を発揮できます。

授賞式を見てもわかる通り、空間デザインに関わる人たちが集まると、エネルギーがとてつもないんですよ。彼らの経済活動や社会貢献に対するパワーは想像以上。それをこれまで声高に主張することもなかったし、自意識もなかったけど、日本の空間デザインは世界にも役に立つと確信しています。

Suzuki Shigechiyo 鈴木 恵千代(すずき しげちよ)
DSA(一般社団法人 日本空間デザイン協会)会長。乃村工藝社 事業統括本部 クリエイティブ本部 統括エグゼクティブクリエイティブディレクター。1956年生まれ。多摩美術大学建築学科卒業。1989年乃村工藝社入社。展示会、商業施設、ミュージアムなど幅広い空間のデザインとアートディレクション、プロデュースを手掛ける。ディスプレイデザイン賞最優秀賞、通商産業大臣賞、グッドデザイン賞金賞など授賞歴も多数。

2. “形”ではなく、“空間”を評価する

ー 第1回の日本空間デザイン賞には1100の作品が集まり、そのうち996作品が国内、104作品が海外からの応募だ。1100作品の応募数はアジアでも最大規模のアワードに匹敵する。 部門は、これまでDSAとJDCの各アワードで設けていたジャンルに加え、「住宅」も導入。3グループ、11部門の賞構成とすることで、あらゆる空間デザインのカテゴリーを内包するアワードを目指している。

日本の空間デザインの価値を高めるだけでなく、世界に向けて定期的に発信するために、日本人が選ぶデザインにこだわったという。審査員はデザイナー、プロデューサー、クリエイター、アートディレクター、建築家、評論家、メディア、ブランドディレクターなどであり、多面的な視点から、社会的な評価価値を設けた。

ネットによる一次審査で入選(Long List)332作品を選出、二次審査でBEST100(Short List)に絞った。三次審査で各部門の金賞、銀賞、銅賞を選定。そこからファイナル審査で各部門の金賞から「KUKAN OF THE YEAR/日本経済新聞社賞2019」が選出された。 幅広いカテゴリーを審査することは難しくなかったのだろうか。審査員の一人、谷川じゅんじ氏と小坂竜氏に話を聞いた。

谷川:二つの賞が統合されたことで、ジャンルが幅広いというのは覚悟していました。建築的に解く作品から、可愛らしいディスプレイまでが同じ土俵に乗り、順位をつけなくてはいけない。

では、何を基準にするのか? 実物を見れば決めやすいのですが、作品が遠くにあったり、すでに存在しないこともある。その場合は写真や映像を見ながら、あたかも自分がそこを訪れたかのように想像し、つくり手のメッセージを受け取り、プロセスも含めて考えました。

各作品のポイント、どこが良かったかを審査員で話し合うわけですが、ある時、みんなの意見が一致する瞬間があるんです。そうやって各部門で基準ができていきました。

金賞は部門を横断していますが、金賞レベルになると、メッセージが明確ですからね。「KUKAN OF THE YEAR」に何を選ぶかが、この賞の方向性を決定づけることになる。議論を重ね、今の時代にふさわしいと一致したのが、「広島平和記念資料館」でした。展示の手法といった話ではなく、存在そのものを評価したんです。

目に見えるものを審査しているけど、目に見えないもので評価しているというのが、このアワードの大きな特徴ですね。“形”の話をしていないんですよ、“空間”の話をしている。建築でもインテリアでもなく、空間に座標を取ったことが、このアワードの特徴であり、今後面白いアワードに育つ可能性がある。

空間デザインというより、日本のデザインが空間化されているという点で、極めて日本的だと思いますね。

谷川 じゅんじ(たにがわ じゅんじ)
スペースコンポーザー JTQ代表。1965年生まれ。2002年空間クリエイティブカンパニー・JTQ設立。“空間をメディアにしたメッセージの伝達”をテーマに、さまざまなイベント、商空間開発、都市活性化事業、地方活性化プログラム、企業ブランディング等を手がける。主なプロジェクトにパリルーブル宮装飾美術館Kansei展、平城遷都1300年祭記念薬師寺ひかり絵巻、GINZA SIX グランドオープニングセレモニーなど。

3. 業界を夢見る若いデザイナーに希望を与える

小坂:作品を選定するのは大変でしたが、終わってみて、良いものはカテゴリーを超えて選ばれるんだと改めて感じました。優等生な意見ですけど(笑)。 近いようで異なる二協会が一緒になったので、時には意見が分かれる場面もありましたが、両協会ならではの部門はそのまま生かされています。建築や商空間は機能があって生まれるけど、エキシビジョンなどはピュアなクリエイティブ。エキシビジョンやプロモーション、クリエイティブ・アート空間といったDSAがもっていた部門は僕にとっては鮮烈だったし、向き合っているパワーがすごいと感じましたね。

誰かが勝てば、誰かが負けるわけで、次の年への原動力にして頑張ってほしい。さまざまなカテゴリーで賞をとれる可能性があるのはいいことだよね。

インテリア業界はこれまで各協会でアワードがあったけど、ワールドカップのように一つになって今年の1番を決めるというのは大切なこと。そうしないと、この業界を夢見ている若い世代が魅力に感じないでしょ? 彼らに希望を与える賞じゃないと。自分も審査員をしているけど、今後は現役でチャレンジしたいね(笑)。

Kosaka Ryu小坂 竜(こさか りゅう)
JCD(一般社団法人日本商環境デザイン協会)副理事長。乃村工藝社 事業統括本部 クリエイティブ本部 統括エグゼクティブクリエイティブディレクター兼 A.N.D.シニアマネージャー。1960年東京生まれ。武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。1985年乃村工藝社入社。「W広州 FEI」や「マンダリンオリエンタル東京メインダイニング」、「新丸ビル 環境デザイン」、「With the Style福岡」など、数多くの話題の飲食店やホテルのデザインを手がける。

4. 真実をデザインの力で呼び起こす

ー 記念すべき第1回の「日本空間デザイン賞 KUKAN OF THE YEAR/日本経済新聞社賞2019」に選ばれたのは、「広島平和記念資料館本館」。

2019年4月、同館開館以来3度目となる全面改修と展示リニューアルが行われ、遺品や被爆者が描いた絵といった実物資料によって原爆の悲惨さ表現し、被爆者や遺族の苦しみや悲しみを伝えることに主眼がおかれた。

展示企画、デザイン・設計、制作・施工を担当したのは丹青社だ。この非常に難しく重いテーマにどのように向き合ったのか。デザインを牽引した同社の田中利岳氏に話を聞いた。

田中:“広島平和”を空間デザインとしてどう表現するか、被爆者の目線を通して何が伝えられるか…。何をやっても真実とは遠のく感触があり、“広島平和”と真摯に向き合うのは大変でしたし、トライ&エラーの連続でした。

真実を伝えるのは、被爆した実物資料であり、被爆者の言葉。どうやってデザインの力で呼び起こし、来館者に伝えるかーー。デザインの革新性や斬新性だけではなく、それよりも突き抜けた何か、見る人に響くようなものを常に念頭において考えました。来館者には最初に被爆者の写真を見ていただき、当時の被爆者が見た同じ光景を感じてもらいながら、フックとなるものを意識して展示を構成していきます。

革新性や斬新さではないところで勝負するのは、デザイナーとして正直、大変でしたね…。しかしそれによって、自分のデザインの立ち位置や、次のステップへのベクトルを確認しならデザインすることの大切さを改めて感じました。

この施設を通じて世界中の人々に平和について考えてもらえたらと思います。最初にこのプロジェクトが始まったのは10年前。館長や学芸員のみなさんと試行錯誤しながら、真摯に取り組めたのは本当にありがたかった。受賞後に、館長から「10年間、一緒にやってこられてよかった」という言葉をいただきました。僕は今年40歳、30代はこのプロジェクトとともに歩んできました。その集大成に大賞をいただけたけたのは感謝しかありません。

Tanaka Toshitake田中利岳(たなか としたけ)
丹青社 プリンシパルクリエイティブディレクター。1979年東京生まれ。東京理科大学大学院理工学研究科建築学修了。2005年丹青社入社。主にミュージアムや公共空間のデザインに携わる。主なプロジェクトに薩摩川内市消防局防災研修センターなど。DSAグランプリ、NDFグランプリ、BEST OF YEAR INTERIOR DESIGN 2017(米国)など受賞多数。

 

5. インターナショナルなアワードを目指して

ー 授賞式後、隣の会場にてパーティーが開催され、受賞者や関係者で大いに賑わった。第1回の「日本空間デザイン賞」を無事盛況のうちに終え、今後はどのようなアワードになっていくのだろうか。JCD理事長の窪田茂氏は、今後の展望についてこう語った。

窪田:日本のデザイン業界の武器となるようなアワードとなるよう育て、日本の空間デザインの価値を世界へと発信する一役を担っていきたいと思います。11の部門は多いようで、網羅できていない部分もあるので、もっと住宅や建築の分野に近いところも幅を広げていきたい。第1回としての手応えはかなり良いです。

第1回の開催で感じた課題を解決し、さらにブラッシュアップしていきたいですね。一番の課題はPR。このアワードがどのような目的で、どのような作品が選ばれ、何を目指しているのか。日本国内だけでなく海外にもメッセージを発信し、認知度を上げていきたい。空間デザインは、今の日本ではニュースとしてなかなか取り上げられないので、きちんとメディアに乗せていけるようにしていきたいですね。

このアワード設立を機に、展覧会も定期的に開催する予定です。まずは、2020年2月4日(火)~16日(日)までの2週間、丸の内の「GOOD DESIGN Marunouchi」で展覧会を開催し、同アワードの金、銀、銅賞の作品の展示のほか、トークショーやイベントを企画しています。

目指すのは一つ。世界中でも権威のあるインターナショナルなアワードにしていく事です。

Kubota Shigeru窪田茂(くぼた しげる)
JCD(一般社団法人 日本商環境デザイン協会)理事長。窪田建築都市研究所 代表。1969年東京生まれ。99年設計事務所などを経て独立。2003年窪田建築都市研究所を設立。建築、インテリア、プロダクトを中心に、様々なジャンルや業態のデザインを行なっている。企画開発やプロデュースも行い、人が集まりコミュニティーが生まれる場所作りを提案している。代表作に、Galaxy Harajuku、The WAREHOUSE(川崎殿町)、METoA Ginza総合プロデュース兼インテリアデザイン、Mercedes-Benz Connection(六本木、他)、今治タオル青山店、café 1886 at Bosch、UT STORE HARAJUKU などがあり、数々の賞を受賞している。

 

文:植本絵美(フリーエディター)
写真:荒井章・末吉さくら(株式会社ナカサアンドパートナーズ
編集:大原信子(株式会社ナカサアンドパートナーズ

この記事は、株式会社ナカサアンドパートナーズのウェブコラムとして編集されたものを寄稿いただきました。